浦和地方裁判所 平成4年(む)B12号 決定 1992年1月30日
主文
原裁判のうち、勾留場所を代用監獄である蕨警察署留置場と指定した部分を取り消す。
被疑者に対する勾留場所を浦和拘置支所とする。
その余の申立てを棄却する。
理由
一 申立ての趣旨及び理由
本件申立ての趣旨及び理由は、弁護人作成の平成四年一月二九日付け準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当裁判所の判断
別紙のとおり。
三 よって、本件申立て中、勾留場所の裁判に関する部分については理由があるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項を適用し、その余の申立ては理由がないから、同法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官木谷明 裁判官大島哲雄 裁判官藤田広美)
別紙準抗告申立書<省略>
別紙
一 勾留の裁判の当否について
1 被疑者は、当裁判所の事実取調べに対し、「本件犯行当夜ころ、共犯者とされるTの依頼に応じ、同人の指示に従って遠方まで車を運転し、帰路交通事故に遭った事実はあるが、同人と本件犯行を共謀したり、共同実行したことはない。途中Tが車を離れたことが二回位あるが、同人が窃盗をしているとは思わなかった。」旨犯行を否認しているが、共犯者とされるTは、捜査官に対しても当裁判所の事実取調べに対しても、明確に被疑者との共謀に基づく実行を断言しており、右犯行の客観的裏付け証拠も存在するので、現段階においては被疑者に対する犯罪の相当の嫌疑は存在すると認めざるを得ない。
2 被疑者は、現在、内妻及びその連れ子とともに、茨城県の住居に居住している者で、右内妻、実母及び弁護人連名の身柄引受書も提出されており、その家族には、身体障害者一級の認定を受けた実父もいるが、被疑者は、昭和六三年一〇月一三日言渡しの窃盗・詐欺罪による懲役刑の実刑前科(懲役二年。平成二年七月二三日刑執行終了)を有し、本件につき有罪の認定を受ければ、再び実刑を免れない立場にあること、被疑者は、本件について、前記のように犯行を否認しているが、検察官は、T供述の信用性を認め、本件につき公判請求をする予定であるとしていることなど、一件記録及び当裁判所の事実取調べの結果により明らかな事実関係に照らすと、現段階において被疑者を釈放すれば、被疑者が処罰を怖れて逃亡するおそれがあると認めざるを得ない。
3 そうすると、本件につき、刑訴法六〇条一項三号所定の事由ありとして、検察官の勾留請求を認容した原裁判は、その限りでは相当である。
二 勾留場所の当否について
1 そこで、進んで、被疑者の勾留場所を代用監獄である蕨警察署留置場とした原裁判の当否について検討する。
2 一件記録及び当裁判所の事実取調べの結果によると、被疑者は、本件の逮捕・勾留に先立ち、平成四年一月八日T外一名との共謀による別件の窃盗罪により同署に逮捕され、その後勾留及び勾留期間延長の裁判を経て、同月二八日まで身柄を拘束されたが、右被疑事実につき否認と黙秘を貫き、処分保留のまま釈放され、即日、本件被疑事実により再逮捕された者であること、被疑者は、右別件の身柄拘束期間中、取調官から、「身上関係については黙秘権はない。」「強制だ。」などと不当な言辞により供述の強要を受けたとしており、弁護人は、右供述を前提として、検察官に対し抗議書を提出していることが認められる。もっとも、被疑者も、その後、取調官の態度が大分変わったとはしているが、右供述及び抗議書により窺われる取調べの経緯に照らすと、取調官が、今後再び被疑者の黙秘権の行使を困難にさせ、あるいは自白を強要する等不当な言動に出るおそれがあると考えざるを得ないのであって、このような状態のまま、被疑者を代用監獄である蕨警察署の留置場に勾留することは、不適当であるというべきである。
3 そうすると、原裁判は、被疑者の勾留場所を代用監獄とした点で、その裁量を誤ったものというべきであるから、原裁判中勾留場所に関する部分を取り消した上、被疑者を、浦和拘置支所に勾留することとする。
4 なお、本件申立ては、直接的には、勾留の裁判自体の取り消しを求めるものであるが、右は、当然に、勾留の裁判の内容を構成する勾留場所の指定部分の変更を求める申立てを内包していると解されるので、その指定部分のみを取り消すことは、許されると考える。